特定商取引法とは何か
特定商取引法(特商法)は、事業者と顧客の間のトラブルが起きやすい取引を対象に、事業者が守るべきルールを定めた法律です。訪問販売や通信販売など、顧客が不利な立場に置かれやすい取引形態を規制しています。
広告運用に携わる方にとって最も関係が深いのは「通信販売」の規制です。ECサイト、LP(ランディングページ)、Web広告はすべて通信販売に該当します。商品やサービスをオンラインで販売する場合、特商法の表示義務を満たす必要があります。
なお、本記事の内容は一般的な解説です。法的な判断については弁護士等の専門家にご相談ください。
特商法が規制する取引の全体像
特商法は7つの取引類型を対象としています。以下の図で全体像を確認しましょう。
広告運用の現場では、通信販売の規制を正しく理解しておくことが最も重要です。以下では、通信販売に関する具体的な規制内容を解説します。
通信販売の広告表示義務
通信販売を行う事業者は、広告に一定の事項を表示する義務があります。これは特定商取引法第11条で定められています。
表示が求められる主な項目は次のとおりです。
必ず表示すべき事項
- 販売価格(役務の対価) : 税込み価格を明示
- 送料 : 無料の場合も「送料無料」と記載
- 代金の支払い時期・方法 : クレジットカード、銀行振込など
- 商品の引き渡し時期(役務の提供時期) : 注文後何日以内に届くか
- 返品・キャンセルに関する特約 : 返品可否、条件、期限
- 事業者の氏名(名称) : 法人名または個人名
- 事業者の住所 : 実際の所在地
- 事業者の電話番号 : 連絡が取れる番号
- 代表者名または責任者名 : 法人の場合に必要
- 申込みの有効期限 : 期限がある場合のみ
- 販売価格以外に顧客が負担する金額 : 工事費、設置費など
- 商品に隠れた瑕疵がある場合の責任 : 不良品対応
- ソフトウェアの動作環境 : デジタル商品の場合
運用メモ 「特定商取引法に基づく表記」ページは、ECサイトやLPのフッターからリンクするのが一般的です。しかし、リンクを設置するだけでは不十分な場合もあります。広告文やLP上で価格や送料に言及する場合は、その場所での表記も求められます。
誇大広告の禁止
特商法第12条では、「著しく事実に相違する表示」や「実際よりも著しく優良・有利であると誤認させる表示」が禁止されています。
具体的には、以下のような表現が問題になります。
- 根拠のない「No.1」「業界最安値」の表記
- 体験談を装った架空の口コミ
- 効果を保証するような断定的な表現
- 比較対象が不明確な割引表示
これらは景品表示法(景表法)でも規制対象ですが、特商法では通信販売に特化した罰則が設けられています。
ECサイト・LPに必要な表示事項チェックリスト
実際にECサイトやLPを運用する場合、何をどこに表示すべきかを整理した図です。
返品に関する特約を定めていない場合、法律上は商品到着後8日以内であれば返品が可能です(送料は顧客負担)。返品不可としたい場合は、その旨を広告に明記する必要があります。
運用メモ 「特定商取引法に基づく表記」ページは画像化せず、テキストで掲載しましょう。検索エンジンがクロールでき、顧客がコピーして問い合わせに使える状態が望ましいです。また、表記内容に変更があった場合は速やかに更新してください。
定期購入の広告表示規制(2022年改正)
2022年6月に施行された改正特商法では、定期購入に関する規制が大幅に強化されました。この改正は、「初回無料」「お試し価格」などの広告で顧客を引き込み、気づかないうちに定期契約をさせるトラブルが多発したことが背景です。
改正のポイント
最終確認画面での表示義務
注文確定前の最終確認画面に、以下の情報を明確に表示することが義務づけられました。
- 定期購入契約である旨
- 各回の商品名・数量・価格
- 支払い総額
- 契約期間・引き渡し回数
- 解約条件と解約方法
禁止される表示方法
最終確認画面で、顧客を誤認させるような表示も禁止されています。
- 「定期購入」であることを小さな文字で隠す
- 解約条件を別ページに記載して見つけにくくする
- 「いつでも解約可能」と表示しながら複雑な条件を課す
- 初回価格のみを大きく表示し、2回目以降の価格を目立たなくする
これらの違反は、消費者庁の特定商取引法ガイドに具体的な事例が掲載されています。改正後は行政処分の事例も増えているため、定期購入を扱う事業者は特に注意が必要です。
運用メモ 定期購入のLPでは、申込みボタンの直前に「定期購入である旨」「支払い総額」「解約条件」を表示しましょう。注文確認画面だけでなく、LPの段階で誤認が生じない表示が求められています。広告審査でリジェクトされる原因にもなります。
LPでの特商法表示ベストプラクティス
特商法の表示義務を満たしつつ、LPのコンバージョン率を下げない方法を整理します。
フッターの「特定商取引法に基づく表記」リンク
すべてのLPに必須です。専用ページを用意し、前述の事業者情報と取引条件をテキストで掲載します。フッターからの導線は、ユーザーが探したときにすぐ見つかる位置に配置しましょう。
申込みボタン周辺の表示
定期購入や継続課金のLPでは、CTAボタンの近くに契約条件の要約を表示します。「月額 ○○円(税込)」「最低○回の継続が条件」「解約は○○から」といった情報を簡潔に示しましょう。
価格表示の注意点
- 税込価格を基本とする(総額表示義務)
- 送料が別途かかる場合は価格の近くに明示
- 初回割引がある場合は、通常価格と初回価格の両方を表示
- 分割払いの場合は、支払い総額も合わせて表記
返品・解約条件の表示
返品の可否、返品期限、返品時の送料負担を明確に記載します。特に「返品不可」の場合は、申込みの前段階で顧客が認識できる位置に表示してください。
運用メモ Google広告やMeta広告の広告審査でも、LPの特商法表記は確認対象です。表記が不十分な場合、広告が不承認になることがあります。新しいLPを公開する際は、広告入稿前に表記漏れがないか確認しましょう。
違反した場合のリスク
特商法に違反した場合、以下のような処分やリスクが生じます。
行政処分
- 指示 : 違反行為の是正を命じられる
- 業務停止命令 : 最大2年間の業務停止
- 業務禁止命令 : 代表者個人への禁止命令
罰則
- 業務停止命令違反 : 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下)
- 虚偽・誇大広告 : 100万円以下の罰金
実務上のリスク
法的な処分以外にも、実務上の影響は大きいです。
- 広告プラットフォームでの広告不承認やアカウント停止
- 顧客からのクレーム・返金対応の増加
- SNSでの炎上やブランド毀損
- 消費生活センターへの相談増加による調査対象化
経済産業省の特定商取引法ページでは、法改正の最新情報や行政処分の事例が公開されています。定期的に確認することをお勧めします。
まとめ
特定商取引法の表示義務は、ECサイトやLPを運用するうえで避けて通れないルールです。特に2022年改正以降、定期購入に関する規制は厳格化しています。
表示義務を守ることは、法的リスクの回避だけでなく、顧客との信頼構築にもつながります。「何を買うのか」「いくらかかるのか」「どう解約できるのか」が明確なページは、結果的にコンバージョン率の向上にも寄与します。
広告運用の担当者として、LPの特商法表記は「法務の仕事」ではなく「広告の品質管理の一部」と捉えて取り組みましょう。
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