PPCの世界の人たちは「変化を愛する」とよく言う。新しい機能が出れば飛びつき、業界カンファレンスでは「適応こそ生き残りの条件だ」と語る。けれど、いざ大きな変化が本当に押し寄せてくると、多くの人がそこで固まってしまう。
これは、Google Ads Liaisonを務めるGinny Marvin氏が、Search Engine Land創刊20周年記念インタビューでこぼしていた本音である。Marvin氏は同誌の元PPCエディターでもあり、20年以上この業界を内側と外側の両方から見てきた人物だ。インタビューは記事のほか、YouTubeで動画版も公開されている。
このひと言で、思わず手が止まった。10年以上運用業界にいて、変化を語ってきた立場として、心当たりがありすぎる。
「インテントマッチに切り替えると数字が荒れる」「P-MAXは中身が見えない」「自動入札は信用できない」。半年前まで新機能の話で盛り上がっていた人ほど、いざ実装段階になると、過去のやり方から動けなくなる。Marvin氏のインタビューは、新機能の解説でもプラットフォームの宣伝でもなく、この20年で運用者が何をしてきて、これから何で詰まるかを正面から語っています。
順を追って、彼女の論点と、自分が現場で見てきた景色を重ねていきたい。
印刷からデジタルへ。PPCにのめり込んだのは、因果がつながったから
Marvin氏のキャリアの出発点は印刷出版業界だった。広告枠を売っても、結果がどうだったかが返ってくるのは数週間後、ときには数ヶ月後。「効いた気がする」で終わる仕事が多かったという。
デジタルに移ってまずSEOに触れ、たまたま休暇を取ったメンバーの代わりに有償検索を引き継いだのが、PPCにのめり込むきっかけになった。「出して、すぐ動く」「金額を入れたら、数字が返ってくる」。この当たり前の感覚が、印刷の世界から来た人間にはとても新鮮だったらしい。
これは多くの運用者に共通する原体験だと思う。マスやオフラインを経験してからPPCに触れた人ほど、「測れること」そのものに惹かれる。私の周りにも、似たキャリアの軌跡を辿ってきた運用者が何人もいる。
ただ、ここで気をつけたいのは、「測れる」という感覚そのものが、いま静かに揺らいでいる、ということだ。Cookie規制、計測のIPベース化、コンバージョン地点の不確実性。20年前にPPCに惹きつけた「即時に測れる感覚」を、今のPPCはまだ持っているだろうか。
キーワードを組み上げる時代から、目的を伝える時代へ
20年前のPPCがどれほど手作業中心だったかを、Marvin氏は具体的に振り返っている。膨大なキーワードリスト、考えうる順列の網羅、除外キーワードの精緻な積み上げ。
ここに自分の20年前の手帳を重ねるなら、Excelの単一セルに数百行のキーワードを並べて、入札単価を1円単位で調整していた光景が浮かぶ。SKAg(1広告グループ1キーワード構成)でアカウントを組み、マッチタイプを完全一致でガチガチに固めて、検索クエリレポートで毎週除外キーワードを足していく。それが「上手い運用者」の証だった。
Marvin氏はこの時代をこう評する。「コントロールしている感覚」を運用者にもたらした一方で、媒体の仕様に合わせてキャンペーンを組む発想を強めた、と。
ここがいちばん効いた。本来は事業の構造に合わせて設計されるべきキャンペーンが、媒体の構造に合わせて設計されていた。マッチタイプの厳密な使い分けも、SKAg構成も、入札単価のキーワード単位調整も、よくよく考えれば「媒体の挙動の逆算」という意味では同じことをしていた。事業を解像度高く理解しているかどうかとは、別軸の能力だったわけです。
誤解のないように書いておくと、マニュアル運用そのものを否定したいわけではありません。あの細かい積み重ねの中で身についた「広告主の立場で考える」感覚は、いまの目的設計型の運用にもそのまま効いていると思うのです。問題は、媒体の挙動を逆算する業務を、いつまで運用者の主仕事にしておくか、なんですよね。
いま、キャンペーンの組み方は「目的(ゴール)」を最初に伝える設計に変わってきている。インテントマッチ、スマートビディング、P-MAX。共通しているのは、媒体側に学習させる余地を渡し、運用者は事業のゴールと制約条件を伝えることに集中する設計思想である。
技術的な巧拙の前に、「自分はこの広告で何を達成したいのか」を、媒体に分かる言葉で言語化できるかが問われる。20年前の運用者には、ここまでの言語化力は求められなかった。
「AIは突然現れたわけではない」
Marvin氏が繰り返し強調していたのが、「AIは2022年や2023年に突然出てきたものではない」という点だ。Google Ads における機械学習は、近似類似(クローズバリアント)、スマート入札、自動最適化など、長い時間をかけて実装が積み重ねられてきた。
ここ数年で大きく見えるのは、LLM(大規模言語モデル)の進歩によって、変化のスピードが一段ギアを上げたから、というのが彼女の整理である。
これは現場感覚としても腑に落ちる。完全一致が「ほぼ完全一致」に変わった瞬間、レスポンシブ検索広告がデフォルトになった瞬間、個別キーワード入札がほぼ消えた瞬間。それぞれの時点で、運用者は段階的に「機械に渡す範囲」を広げてきた。LLMの登場で起きているのは、その延長線上の加速にすぎない。
「AIに仕事を奪われる」という話よりも、「これまでの自動化の意味を、いま改めて言語化できるか」のほうが、運用者にとって意味のある問いだと思う。
検索行動そのものが変わっている
プラットフォーム側の進化と並行して、ユーザーの検索行動も変わっている。クエリは長く複雑になり、画像・音声・テキストを混ぜたマルチモーダル検索が増え、「何を入力したか」だけではなく「何を意図しているか」を媒体側が解釈するようになった。
Marvin氏はここで、運用者の視点を「最後のコンバージョン地点」だけに置くのは危ういと指摘している。顧客の意思決定プロセス全体を見て、その中で広告が果たすべき役割を再設計する必要がある、と。
日本市場でも、AI Overviews(Google検索のAI回答機能)の本格展開、ChatGPTやPerplexityの広告搭載、Yahoo!検索のAI回答実装が同時並行で進んでいる。「検索広告」というカテゴリーの中身が、ここ2、3年で別物になりつつある、というのが正直な実感だ。
「成功の定義」は変わっていない
ここはMarvin氏のインタビューでいちばん安心感のある論点だった。
検索広告における成功の定義は、20年前から本質的には変わっていない。事業のゴールに対して、どれだけ寄与したか。それだけだ。
変わったのは、それを「測る能力」のほうである。1stパーティデータの活用、コンバージョン計測の精度、オフラインデータの取り込み。媒体側の自動化が進めば進むほど、運用者の側で正しいシグナルを送れているかが、結果を分ける。
派手な機能のオン・オフよりも、計測の地盤を整えることのほうがインパクトが大きい局面が、いま日本の現場でも増えている。「P-MAXが回らない」と言っているアカウントの多くは、実は計測の質に問題があるケースが多い。Marvin氏の整理は、そのへんの実感と完全に重なる。
次の20年に求められるのは、結局「好奇心」だった
これからの広告運用者にとっていちばん重要な資質を問われたMarvin氏は、「好奇心(curiosity)」と答えていた。学び続け、ユーザーの行動を観察し、変化を強制される前に自ら適応する。
そのうえで彼女は、冒頭で紹介した釘を刺してくる。「PPCの世界の人たちは『変化を愛する』と言うけれど、いざ大きな変化が来ると抵抗する人が多い」。
新機能を1度試してダメだったから、と何ヶ月も放置していないか。プラットフォームの進化スピードを考えれば、半年前のテスト結果はもう当てにならない。書き捨てるのではなく、もう一度試す姿勢を持てるか。これが、向こう数年の運用品質を地味に分けていく。
自分自身に向けて
最後に、このインタビューを読みながら、自分に向けて言いたかったことをそのまま書く。
ひとつめ。マニュアル運用への愛着を、いつ、どこで、手放すか。日本の代理店現場には、「細かく見られる」ことを価値にしてきた文化が根強くある。それ自体は否定しない。けれど、その細かさが媒体の仕様逆算に向いているのか、事業の構造の解像度を上げる方向に向いているのか、定期的に問い直したほうがいい。
ふたつめ。自動化の中身を理解した運用者と、ボタンを押すだけの運用者の差は、これから可視化されていく。「AIは突然現れたわけではない」をちゃんと理解している運用者は、いまの設定でなぜこの結果が出ているのかを説明できる。説明できる人と、できない人の差が、生成AIの時代にこそはっきり出る。
みっつめ。フルファネル思考は、もう「上級者の話」ではない。検索行動が複雑になり、ユーザーが検索エンジンを横断して情報を集めるなかで、最後のコンバージョン地点だけを最適化しても限界が来る。最低限、認知から購入までのどこに自社の広告がいるのか、見えていないと判断ができない。
Ginny Marvin氏のインタビューは、Google側のポジショントークではなく、20年広告業界を見てきた一人の専門家の肉声に近い。「変化を語ってきた人ほど、変化が来たときに固まる」というあのひと言は、自分にもチームにも、まだ効いている。
検索広告は、これからの数年でもう一段違う形に変わると思います。そのとき、「あの頃は良かった」と言う側に回るのか、変化の方を先に見にいく側に回るのか。技術や知識の差ではなく、結局は姿勢の差なんだと思うのです。
参考: Ginny Marvin on AI in search, PPC trends, and Google Ads evolution - Search Engine Land(2026年4月27日)/同インタビュー動画(YouTube)