この記事でわかること
「ドパガキ」という言葉をきっかけに、注意を奪う最適化を積み重ねてきた広告運用の側を振り返る。管理画面の上では刺激で取った反応と価値が伝わった反応が同じ顔をしていること、成果から因果を決めるのが速すぎることについて書きます。
生成AIによる要約
ドパガキ、という言葉を見かけるようになりました。
ドーパミン中毒のガキ、の略だそうです。ショート動画やゲームのような刺激の強いコンテンツに慣れてしまって、常に新しい刺激を求め、集中力が続かなくなった状態を指す。主に若い世代を揶揄する言葉として使われています。
最初に見たときは、うまいことを言うなと思いました。ただ、二度目、三度目と目にするうちに、少し落ち着かない気持ちになってきたんですよね。
その環境を作ってきたのは、誰なのだろう、と。
閾値を上げる仕事
僕らの仕事を分解してみると、けっこうな部分が「注意を奪うこと」でできています。
最初の3秒で掴む。離脱率を下げる。フックを強くする。スワイプされる前に情報を出し切る。動画広告の改善提案を書いたことがある人なら、こういう言葉を一度は自分の資料に書いていると思います。
そして、それは成果につながります。実際に数字は動く。だから次の案では、もう少し強いフックを試す。効いたら、また強くする。これを何百回、何千回と繰り返してきました。
それぞれの運用者は、目の前の案件で成果を出そうとしただけだと思うのです。ただ、その最適化が業界全体で同時に走ると、受け手の側では刺激の閾値が上がっていく。ドパガキと呼ばれている状態は、若い世代の劣化というより、僕らの最適化の出力に近いのではないでしょうか。
管理画面は、刺激と価値を区別しない
ここからが本題です。
CTRが上がったとき、僕らは何が起きたと考えるでしょうか。多くの場合、「この訴求が効いた」と解釈します。レポートにもそう書きます。次のクリエイティブも、その訴求を軸に展開していきます。
でも、その反応は本当に訴求への反応だったのでしょうか。
強い色を使った。動きを速くした。冒頭に驚きを置いた。数字を大きく出した。こうした要素は、訴求の中身とは無関係に反応率を上げます。そして管理画面の上では、刺激で取った反応と、価値が伝わった反応が、まったく同じ顔をしている。 CTRという一つの数字に、両方が合流してしまうんですよね。
成果は出た。それは事実です。でも、仮説が当たったことの証明にはなっていない。ここを僕らはよく混同すると思うのです。
そして混同したまま最適化を回すと、手元に残るのは刺激のほうです。刺激は再現しやすく、価値の伝達は再現しにくいので、機械学習に任せても人間が判断しても、同じ側に寄っていきます。
「数字が出ているならいいじゃないか」
そう言われそうですし、短期で見ればそのとおりだと思います。
ただ、刺激で取った数字には、返済期日のようなものがあります。同じ強さでは反応しなくなるので、次はもっと強くしないといけない。クリエイティブの枯れが速いと感じている人は多いと思いますが、あれは制作体制の問題というより、自分たちで閾値を上げてきた結果という面もあるのではないでしょうか。
一方で、刺激そのものが悪いとは思っていません。見てもらえなければ何も始まらないし、注意を引く技術は広告の中核です。刺激を使うか使わないかという話ではなくて、自分がいま刺激で取ったのか、価値で取ったのかを、区別しているかどうかの話だと考えています。
同じ構造は、成功事例にもある
最近、支援事例を丁寧に書いた記事をよく見かけます。
数字があって、仮説があって、施策があって、結果がある。読み応えのあるものも多いですし、公開してくれること自体はありがたいことだと思っています。
ただ、多くの事例記事に共通する形があって、それは「結果から遡って、納得のいく機序を組み立てている」ということです。
成果が出た。だから仮説が正しかった。だからこの層は存在した。この流れは読み物としてとても気持ちがいいのですが、成果と機序のあいだには、本当はもう一段の検証が要ります。狙った層が実際に反応したのか。既存の施策から食い合っただけではないのか。二ヶ月ではなく、半年後もそうなのか。
面白いのは、ドパガキという言葉そのものが、まったく同じ構造で作られていることです。ショート動画を見る人がいて、集中力が続かない人がいて、その二つを結んで因果にした。集中力が続かない人のほうがショート動画を選んでいるのかもしれないし、睡眠や生活環境が効いているのかもしれない。相関に納得のいく物語をかぶせているという点では、僕らのレポートと変わりません。
僕らは、因果を決めるのが少し速すぎるのかもしれない、と思うのです。
それでも書いておきたいこと
僕自身、効いた理由を後から都合よく説明したレポートを何本も書いてきました。背景色を変えただけで反応が伸びた案を、訴求が当たったことにして次の提案に載せたこともあります。
それと、ドパガキという言葉を冷笑的に使う側にも、同じ落とし穴があると思っています。他人を揶揄して優位に立った気分になるのも、おそらく安価なドーパミンなんですよね。事例記事が増えて飽きた、と言っている僕自身が、ただ新しい刺激を探しているだけかもしれない。ここは正直に書いておきたいところです。
だから結論は、刺激をやめようという話ではありません。
CTRが上がったときに、これは訴求が効いたのか、それとも刺激が強かっただけなのか、と一度立ち止まれるかどうか。その問いを持ったまま最適化を続けられるかどうかが、五年後に手元へ何が残っているかを分けるのだと思います。
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ryottaman
広告代理店で17年、現在は事業会社でインハウスマーケティングを担当しています。
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