数年前、クライアントへの月次報告で「CPAが前月比で15%悪化しました。入札を調整して改善を図ります」と書いていた時期があります。
当時の自分は、これを「分析」だと思っていました。数字を見て、変化を見つけて、打ち手を出している。やるべきことはやっているつもりだった。
でも今振り返ると、あれは分析ではなく、ただの数字の読み上げでした。
そのことに気づかせてくれたのが、後正武さんの「意思決定のための『分析』の技術」です。マッキンゼーで20年以上コンサルティングに携わった著者が、あらゆる分析に共通する基本の型を4つに整理した本です。
この4つの型を知ってから、管理画面の数字の見え方がはっきり変わりました。
大きさを考える:そもそも、その改善は意味があるか
最初の型は「大きさを考える」。規模感を掴むことです。
以前、ディスプレイ広告のCPAが高いことが気になって、ターゲティングの絞り込みやクリエイティブの差し替えに2週間ほど時間を使ったことがあります。結果、CPAは20%改善しました。ただ、そのキャンペーンの月間予算は5万円でした。
一方、同じアカウントの検索広告は月200万円の予算で動いていて、LPのCVRは1.0%。もしLPの改善でCVRが1.2%になっていたら、月間CV数は20件以上増えていた計算です。
5万円の20%改善に2週間。200万円の構造改善はノータッチ。大きさを考えるという型が頭にあれば、まずどちらに時間を使うべきかは明らかでした。
広告運用者は管理画面の「中」に意識が向きがちです。でも、分析の起点は管理画面の外にあります。そのクライアントの売上全体に対して、広告経由の売上はどれくらいの規模なのか。市場全体の中でいま取れているシェアはどの程度か。そこを押さえてから管理画面に向かうだけで、打ち手の優先順位がまるで変わります。
分けて考える:全体CPAという数字は、何も教えてくれない
2つ目の型は「分けて考える」。
「全体CPAが悪化した」は、事実の報告ではあっても分析ではありません。なぜなら、全体CPAという数字は複数のキャンペーン、デバイス、地域、時間帯の結果が混ざり合った「結果の結果」だからです。
ここで大事なのは、分解の切り口に仮説を持つことです。
あるBtoBのアカウントで月次CPAが急騰したとき、最初はキャンペーン別に分解してみましたが、どのキャンペーンもまんべんなく悪化している。次にデバイス別に見たら、モバイルのCPAだけが倍近くに跳ね上がっていました。調べてみると、LP改修でモバイルのフォームに不具合が出ていた。
仮説を変えて分解の軸を切り替えたから見つかった原因です。「いつもキャンペーン別で見ている」という習慣は、見つかるはずの問題を見逃す原因にもなります。
分解は手段であって目的ではありません。20個のセグメントを並べて「網羅的に分析しました」というのは、分析したフリです。仮説を持って切る。結果を見て、仮説を変えてもう一回切る。この往復が「分けて考える」の本質です。
比較して考える:数字は、並べた瞬間に意味を持ち始める
CTRが2%。CVRが1.5%。CPA 8,000円。
これらの数字は、単体では良いとも悪いとも言えません。比較対象を置いて初めて判断材料になります。
自分が一番使う比較軸は、前年同月比です。前月比ももちろん見ますが、季節性のある商材だと前月比はミスリードを生みやすい。「12月に広告効率が上がった」のは施策の成果ではなく、年末商戦で需要が増えただけかもしれない。前年同月と比べれば、需要増の影響を差し引いた実力値が見えてきます。
もうひとつ使うのが、ファネルの前後比較です。検索広告のCTRが上がったのにCVが増えていないとき、「クリックの質が変わった」のか「LPに問題がある」のか。CTRとCVRをセットで比較すると、ボトルネックが浮かび上がります。
数字は、並べた瞬間に意味を持ち始める。逆に言えば、比較なしに語られる数字には、どんなに桁数が多くても意味がありません。
時系列を考える:「悪化した」の手前にある問い
4つ目の型は「時系列を考える」。これが、冒頭で書いた過去の自分に最も足りなかったものです。
「CPAが前月比15%悪化しました」と報告していた当時の自分は、先月と今月の2点だけを比較していました。でも2点の比較では、それが上昇トレンドの中の一場面なのか、一時的なブレなのか、判断できません。
ある時、クライアントから「CPAが先月から急に上がっているのですが」と問い合わせがありました。焦って調べたところ、実は3か月前からじわじわ上昇していて、先月たまたま閾値を超えて目立っただけだった。もっと早い段階で時系列の推移を見ていれば、1か月目の微増の時点で手を打てていたはずです。
時系列を見るとき、もうひとつの武器が周期性の把握です。BtoBなら平日と土日のギャップ、ECなら月末の給料日前後の動き、季節商材なら年間の波。自分のアカウントの「普通の動き」を知っておくと、本当に異常なシグナルだけに反応できるようになります。
過去データを月次で並べて眺める。派手さのない地道な取り組みですが、これを習慣にしてから「慌てて入札を変えて、翌日に元に戻す」ということが明らかに減りました。
「型」があれば、自動化の時代でも判断できる
P-MAXやAdvantage+のような自動化が進む中で、管理画面の数字を手動で調整する仕事は確実に減っています。
でも、自動化が進むほど、「この結果をどう解釈するか」「次に何を判断するか」の重要性はむしろ上がっている。機械は最適化してくれますが、「そもそも何を最適化すべきか」は人間が決めるしかありません。
大きさを考える。分けて考える。比較して考える。時系列を考える。
書いてしまえばシンプルです。でも、この4つの型を意識して管理画面を見るのと、なんとなく見るのとでは、同じ数字から引き出せるものがまったく違う。
自分はこの本を読んで、「CPAが上がりました」で止まっていた報告が「なぜ、どこで、いつから、どれくらいの規模で起きているか」を語れるようになりました。
分析とは、数字を見ることではなく、数字に問いを立てることです。その問いの立て方に「型」を持てるかどうかで、運用者としての仕事の質は大きく変わります。