はじめに:この事例について
この記事は、複数の検索広告改善プロジェクトの経験をもとに構成した架空の事例です。特定の企業の実績ではありませんが、実際の運用で起こりやすい課題と施策を再現しています。
検索広告のCPA高騰に悩んでいる方の参考になれば幸いです。
課題:CPAが半年で1.5倍に高騰
対象は、個人向けのオンライン英会話サービスを展開するBtoC企業です。月間の広告費は約150万円。Google広告の検索キャンペーンを主力チャネルとして運用していました。
半年前まではCPA 8,000円で安定していたものの、直近3か月でCPAが12,000円まで上昇。CV数は月間125件から90件に減少していました。広告費は変わっていないにもかかわらず、獲得効率が悪化し続けている状態です。
競合の参入が増えた影響もありますが、それだけでは説明がつかない悪化幅でした。
分析:3つのボトルネックを特定
まず、アカウント全体を棚卸しし、パフォーマンス悪化の原因を調査しました。見つかった問題は大きく3つです。
問題1:過度に細分化されたアカウント構造
当時のアカウントには検索キャンペーンが12本、広告グループは合計48個ありました。「オンライン英会話」「英語 レッスン」「英会話 安い」など、キーワードのテーマごとに広告グループを細かく分けていたためです。
この構造では1つの広告グループあたりのコンバージョン数が月に2〜3件にとどまります。自動入札が学習するには少なすぎる数値です。結果として、入札の最適化が進まず、CPCの上昇をそのまま受け入れる形になっていました。
問題2:除外キーワードの未整備
検索クエリレポートを3か月分確認したところ、広告費全体の約18%が意図しないクエリに使われていました。「英会話 無料」「英会話 アプリ 比較」など、サービスの申し込みにつながりにくいクエリです。
除外キーワードは導入時に設定したまま、1年以上更新されていませんでした。
問題3:手動入札の限界
入札戦略は拡張CPC(手動CPC + 自動調整)を使用していました。48個の広告グループに対して、週に1回ずつ手動で入札単価を調整していたため、運用の工数が大きく、かつ調整の精度にも限界がありました。
デバイス・時間帯・地域ごとの入札調整比率も設定していましたが、データ量が分散しすぎて効果的な調整ができていない状態です。
施策1:アカウント構造の再設計
最初に取り組んだのは、12キャンペーン・48広告グループの構造をシンプルにすることです。
統合の方針
キーワードのテーマではなく、ユーザーの検索意図で広告グループを再編しました。具体的には以下の3キャンペーン・6広告グループに統合しています。
| キャンペーン | 広告グループ | キーワード例 | 想定意図 |
|---|---|---|---|
| ブランド | 指名検索 | サービス名、サービス名+評判 | 比較・検討段階 |
| 一般(顕在層) | サービス探し | オンライン英会話 おすすめ、英会話 料金 | 具体的なサービス検討 |
| 一般(顕在層) | 申込意図 | オンライン英会話 無料体験、英会話 始め方 | 申込に近い段階 |
| 一般(顕在層) | 目的別 | ビジネス英語 オンライン、TOEIC 対策 レッスン | 特定目的での検索 |
| 一般(潜在層) | 課題認知 | 英語 話せるようになりたい、英語力 伸ばす | 課題の自覚段階 |
| 一般(潜在層) | 情報収集 | 英語 勉強法 社会人、英会話 効果 | 情報収集段階 |
キャンペーン数を12から3に、広告グループ数を48から6に集約しました。
統合の効果
1つの広告グループあたりのコンバージョン数が、月2〜3件から月12〜20件に増加しました。自動入札が十分に学習できるデータ量です。
また、広告文もユーザーの意図に合わせて最適化しやすくなりました。48個の広告グループに個別の広告文を用意する必要がなくなったため、レスポンシブ検索広告のアセット品質に集中できるようになっています。
運用メモ アカウント構造の統合は、一度にすべてを変更するのではなく、まず1つのキャンペーンで試してから横展開するのが安全です。この事例では、最もコンバージョン数の多い「一般(顕在層)」キャンペーンから着手しました。2週間の経過観察で悪化がないことを確認してから、残りのキャンペーンを統合しています。
施策2:除外キーワードの体系的整備
次に取り組んだのが、除外キーワードの見直しです。単に不要なキーワードを除外するだけでなく、運用ルールとして仕組み化しました。
除外リストの設計
除外キーワードをアカウントレベルの共有リストとして4カテゴリに整理しました。
| リスト名 | 内容 | キーワード例 | 除外数 |
|---|---|---|---|
| 無料系 | 無料サービスを探すクエリ | 無料、タダ、0円、フリー | 28語 |
| 比較・まとめ系 | アフィリエイト記事経由の情報収集 | 比較、ランキング、まとめ、口コミ | 22語 |
| 競合ブランド | 競合サービス名 | (具体名は割愛) | 15語 |
| 不一致業態 | 対面教室や留学などサービス外 | 教室、通学、留学、スクール 通い | 18語 |
合計83語の除外キーワードを追加しました。
検索クエリの定期レビュー
除外キーワードの追加だけで終わらせず、週次で検索クエリレポートを確認するルーティンを設けました。確認の基準は以下の通りです。
- 表示回数50回以上かつCVゼロのクエリを抽出
- クリック率が平均の半分以下のクエリを確認
- 新たに出現した不一致クエリを除外リストに追加
この運用を始めたことで、広告費の無駄遣い率が18%から6%に改善しました。月間の広告費150万円のうち、約18万円分が本来届けたいユーザーへの配信に振り替わった計算です。
施策3:入札戦略の変更
3つ目の施策は、入札戦略の切り替えです。拡張CPC(手動CPC + 自動調整)から目標CPA入札への移行を行いました。
移行の手順
いきなり全キャンペーンを切り替えるのではなく、段階的に移行しました。
- まず「一般(顕在層)」キャンペーンで目標CPAを導入(目標CPA: 9,000円)
- 2週間の学習期間を経て、成果が安定したことを確認
- 「ブランド」キャンペーンにも適用(目標CPA: 5,000円)
- 最後に「一般(潜在層)」キャンペーンにも適用(目標CPA: 15,000円)
各キャンペーンの目標CPAは、直近30日間の実績CPAをベースに設定しました。いきなり低い目標を設定すると配信量が極端に減るため、まずは実績と同程度の目標で開始し、学習が進んでから段階的に引き下げる方針です。
手動調整からの脱却
拡張CPCの時代は、48の広告グループに対して手動で入札単価を調整していました。この業務に週あたり2〜3時間を費やしていましたが、目標CPA入札への移行後は不要になりました。
空いた時間を広告文のテストや除外キーワードのレビューに充てられるようになり、運用全体の質が向上しています。
運用メモ 目標CPA入札への移行直後は、CPAが一時的に上振れすることがあります。これは自動入札の学習期間(通常1〜2週間)で起こる現象です。この期間中に目標CPAを下げたり、予算を大幅に変更したりすると学習がリセットされてしまいます。「学習中」のステータスが表示されている間は設定を変えない、と事前にチーム内で合意しておくことが重要です。
結果:CPA 40%改善、CV数も回復
3つの施策を約3か月かけて段階的に実施しました。最終的な成果は以下の通りです。
広告費を変えずに、CPAが12,000円から7,200円へ40%改善しました。CV数も90件から145件へと大幅に増加しています。
改善の内訳を整理すると、以下の通りです。
| 指標 | Before | After | 変化率 |
|---|---|---|---|
| CPA | 12,000円 | 7,200円 | -40% |
| CV数 | 90件/月 | 145件/月 | +61% |
| 広告費 | 150万円/月 | 150万円/月 | 変更なし |
| CTR | 3.2% | 4.8% | +50% |
| CVR | 2.1% | 3.4% | +62% |
| 無駄遣い率 | 18% | 6% | -67% |
CTR(クリック率)とCVR(コンバージョン率)の両方が改善しています。広告文がユーザーの意図に合致するようになったことでCTRが上がり、不要なクリックが減ったことでCVRも向上しました。
施策ごとの効果と実施タイムライン
3つの施策は同時ではなく、段階的に導入しました。各施策の効果が表れたタイミングを以下にまとめます。
施策ごとの寄与度を概算すると、以下のように分解できます。
| 施策 | CPA改善への寄与 | 効果が出た時期 | 主な改善メカニズム |
|---|---|---|---|
| アカウント構造の再設計 | 約15% | 2週間後〜 | 自動入札の学習データ量が増加 |
| 除外キーワード整備 | 約12% | 即時〜 | 無駄なクリックの排除 |
| 入札戦略の変更 | 約13% | 2週間後〜 | 入札精度と配信効率の向上 |
| 合計 | 約40% | 3か月 | 3施策の相乗効果 |
除外キーワードの整備は効果が即座に表れました。設定した翌日から、不要なクエリへの表示が止まるためです。
一方、アカウント構造の統合と入札戦略の変更は、自動入札の学習期間を経て効果が現れます。特に入札戦略の変更は、統合後のアカウント構造でデータが蓄積された状態で行ったため、学習の立ち上がりが早かったと考えています。
この事例から得られる学び
構造を先に整える
入札戦略や除外キーワードの改善も重要ですが、アカウント構造が細分化されている状態では効果が出にくくなります。自動入札が十分に学習できるデータ量を確保することが前提条件です。
この事例では、広告グループあたりの月間コンバージョン数が2〜3件から12〜20件に増えたことで、他の施策の効果も引き出しやすくなりました。
除外は「仕組み」にする
除外キーワードを一度追加して終わりにするのは、よくある失敗パターンです。新しい検索クエリは常に発生するため、定期的なレビューを運用ルーティンに組み込むことが大切です。
この事例では週次レビューを導入しましたが、月間の広告費が100万円以下のアカウントであれば、隔週や月次でも十分です。重要なのは頻度よりも「止めずに続けること」です。
施策は順番に実施する
3つの施策を同時に行うと、どの施策がどれだけ効いたかが分からなくなります。今回は「構造→除外→入札」の順番で導入し、各施策の効果を個別に確認しながら進めました。
この順番にも意図があります。まずアカウント構造を整えてデータの集約度を上げ、次に除外キーワードでデータの質を高め、最後にそのクリーンなデータをもとに自動入札を導入する。前の施策が次の施策の土台になる設計です。
広告費を増やす前にやるべきこと
CPA高騰に対して「広告費を増やしてCV数を維持する」というアプローチもあります。しかし、構造的な問題を抱えたまま広告費を追加投入しても、無駄な支出が比例して増えるだけです。
まずは既存の広告費の中で改善余地を探ることが先決です。この事例のように、広告費を変えずにCPAを40%改善できるケースは少なくありません。
再現のためのチェックリスト
この事例の施策を自社アカウントに適用する際の確認ポイントをまとめます。
| チェック項目 | 基準 |
|---|---|
| 広告グループあたりの月間CV数 | 15件以上あるか |
| 検索クエリの不一致率 | 広告費の10%以下か |
| 除外キーワードの最終更新日 | 1か月以内か |
| 入札戦略 | コンバージョンデータに基づく自動入札を使っているか |
| キャンペーン構造 | 意図の異なるキーワードが適切に分離されているか |
上記のいずれかに該当する場合は、今回紹介した施策が有効に機能する可能性があります。特に「広告グループあたりのCV数が月15件未満」かつ「手動入札を使用中」の組み合わせは、改善の余地が大きいパターンです。
検索広告のCPA改善は、派手な新機能の導入よりも、こうした基本的な構造整備から始めるのが効果的です。アカウントの現状を正しく診断し、順序立てて改善を進めることで、着実に成果につなげられます。
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