この記事でわかること
- 細分化で属性は増えても、顧客が何を片づけたいのかは見えず、学習データも分散して結果が鈍化しました。
- 機械学習が前提の今、属性で割く価値は薄れ、コンバージョン定義やシグナル設計が優先です。
- N1インタビューと行動データで顧客の用事を把握し、仮説が固まってから束ねてエンジンに渡すべきです。
生成AIによる要約
数年前、あるコスメの案件で僕はオーディエンスを10個に割りました。年代で3つ、そこに未婚・既婚、さらに関心カテゴリを掛け合わせた構成です。管理画面は壮観でした。広告セットがきれいに並び、いかにも「戦略的」に見えました。
ところが結果は、割る前より鈍かったのです。CPAは横ばい、学習は不安定。ひとつの広告セットに十分な数が溜まらず、どのセグメントも中途半端に伸び悩みました。
不思議だったのは、レポートを眺めても打ち手が浮かばなかったことです。「30代既婚・美容関心層のCVRが低い」と書いてはみたものの、では彼女たちが何を求めていたのかは、まったく見えていませんでした。属性は10個に増えたのに、顧客の顔は1人も浮かばなかったのです。
属性を分解しても、買う理由は出てこない
いま振り返ると、原因は単純でした。僕は「誰か」を細かくしただけで、「なぜ買うか」には一歩も近づいていなかったのです。
年代や婚姻で割ることは、母集団の切り分けにはなります。でも、その人が朝の洗面台の前で何に困っているかは、属性からは出てきません。同じ「30代既婚」の中に、時短を求める人も、肌荒れに悩む人も、単に気分を上げたい人も混在しています。
クレイトン・クリステンセンは、この点を「ミルクシェイクの話」で示しました。ある店のミルクシェイクは、朝の通勤客が「退屈な運転の相棒」として買っていた。年齢や性別ではなく、片手で長く楽しめるという機能が理由だった、という有名な例です(出典:Harvard Business Review「Marketing Malpractice」2005年)。
彼が言いたかったのは、人は属性で買うのではなく、片づけたい用事のために製品を「雇う」ということです。属性を分解しても、この用事は分解されて出てきません。むしろ細かく割るほど、用事が属性の下に埋もれていきます。
細分化は、学習を痩せさせる
実務では、もうひとつの問題が重なります。自動入札や機械学習を前提にした配信では、細分化がそのまま学習の材料を減らすことにつながります。
ひとつの広告セットに十分なコンバージョンが溜まらなければ、最適化のエンジンは判断材料を持てません。10個に割った僕のアカウントは、10個それぞれが学習に足りない状態でした。きれいに見えた構成は、実は学習を10分割して痩せさせていたのです。
機械学習が前提になった今、細分化の意味は昔と変わりました。かつては配信面が手動だったので、人が仮説で母集団を切る価値がありました。いまは、束ねて渡したほうがエンジンが勝手に最適な組み合わせを探します。
つまり「どう割るか」より「何を学習させたいか」が先に来ます。僕らが設計すべきは属性の格子ではなく、コンバージョンの定義や渡すシグナルのほうへ移っています。
顔を取り戻すのは、割ることの逆側にある
では、あの案件で本当に必要だったのは何か。答えは「割る」の逆でした。1人に近づくことです。
僕はその後、実際に買ってくれた人に話を聞きました。いわゆるN1インタビューです。すると、想定していた「30代既婚」という枠とは別の言葉が出てきました。「子どもを送り出したあと、5分だけ自分に戻る時間が欲しかった」という声です。
この一文は、どのセグメントにも書けません。でも訴求には直結しました。時間のなさと、ほんの少しの自分の回復。この軸でクリエイティブを作り直したら、束ねた広告セットのままで数字が動き始めました。
行動データも同じ方向で使えます。購入直前に見ていたページ、リピートの間隔、初回に選んだ商品。属性ではなく行動のパターンから、用事の輪郭が浮かびます。N1で仮説を立て、行動データで裏を取る。この往復が、消えた顔を取り戻す道でした。
順番として、僕はこう整理しています。まず1人の用事を深く聞く。次に同じ用事を持つ人の広がりを行動データで確認する。そのうえで、束ねてエンジンに渡し、訴求で語りかける。割るのは最後、しかも仮説が固まったときだけです。
細分化は、それ自体が悪いわけではありません。ただ「割ること」が目的化すると、手を動かした感触だけが残り、顧客は遠ざかります。管理画面のマス目が増えたとき、僕はいつも自分に問うようにしています。この線は、誰かの用事を1つでも説明できているか、と。
明日レポートを開いたら、いちばんCVRの低いセグメントを1つ選んでみてください。その枠の中にいる人が、朝、何を片づけたくてこの商品を雇ったのか。属性ではなく用事で一文にできるか、試してみると景色が変わるはずです。
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