この記事でわかること
- 値下げしても売上が変わらなかった理由は、価格が品質のメッセージを伝えていたのに、割引がそれを削ってしまったからです。
- 人は価格を数字ではなく、その商品が何者かを語る言葉として読んでいます。値引きは買う理由を足す一方で、別の理由を削ります。
- 広告で価格を前面に出すべきか判断するには、何のメッセージを伝えたいかを明確にしてから、その順番を決める必要があります。
生成AIによる要約
あるクライアントの商品が、なかなか動きませんでした。
単価は少し高めの日用品でした。競合よりも品質はいい。でも売れない。そこで値下げを決めました。定価から15%オフ。広告のクリエイティブにも「今だけ15%OFF」と大きく載せました。
僕は正直、これで数字が動くと思っていました。安くなったのだから、買わない理由が減る。そう考えていたからです。
ところが、結果はほとんど変わりませんでした。CTRは微増。CVRは横ばい。CPAはむしろ悪化しました。値下げした分だけ、利益が薄くなっただけでした。
なぜ売れなかったのか。しばらく考えて、僕は自分が価格を「数字」としてしか見ていなかったことに気づきました。
価格は数字ではなく、メッセージとして読まれている
人は価格を、単独の数字としては受け取りません。何かと比べて「高い」「安い」と判断します。この比べる基準を、行動経済学では参照価格と呼びます。
近いところに、アンカリングという現象があります。トヴェルスキーとカーネマンが1974年の論文で示したものです(Tversky & Kahneman, 1974, Science)。人は最初に示された数字に判断を引っ張られます。後の評価が、その錨に近づいていきます。
この商品の場合、参照価格は「少し高め」でした。そしてその高さが、品質の高さを伝えていました。値段そのものが「これはいいものです」というメッセージを運んでいたわけです。
15%オフは、そのメッセージを削りました。安くなった、ではなく、そんなに高くなかった、と読まれた。品質を信じて買おうとしていた人にとって、値下げは安心ではなく疑問だったのかもしれません。
僕は価格を「買う理由を増やすレバー」だと思っていました。でも実際には、価格は「この商品が何者か」を語る言葉でもあったのです。
値引きは、買う理由をひとつ足して、別の理由をひとつ削る
値引き訴求には、確かに効果がある場面があります。すでに欲しいと思っている人の背中を押すとき。比較検討の最後の一押しがほしいとき。
けれど値引きは、足すだけではありません。同時に何かを削ります。
割引で下げた参照価格は、元に戻りにくいものです。一度15%オフで見た人は、それが新しい基準になります。次に定価を見ると、高く感じてしまう。
値引きを繰り返すと、その商品は「セールのときに買うもの」になっていきます。定価で買う人が減る。ブランドが積み上げてきた価格の納得感が、少しずつ薄まっていく。
これは僕の考えですが、あの15%オフは、買う理由をひとつ足して、品質のメッセージをひとつ削ったのだと思います。差し引きで、ほとんどゼロだった。数字が動かなかったのは、そういうことだったのかもしれません。
広告で価格を出すかどうかは、何を伝えたいかで決まる
では、広告クリエイティブで価格をどう扱えばいいのか。僕なりの判断軸を書きます。
まず、価格を前面に出すべき場面があります。相場が読みにくい商品のときです。いくらか分からないと、人は問い合わせをためらう。ここでは価格提示が不安を減らします。
逆に、価格を出さないほうがいい場面もあります。価値の理解がまだ浅いときです。何がいいのかを伝える前に価格を見せると、価値ではなく数字だけで判断されてしまう。まず「これは何者か」を語る。価格はその後です。
順番の問題でもあります。カーネマンの言うアンカーが最初の数字に引っ張られるなら、広告で最初に何を見せるかは重要です。品質のアンカーを打ってから価格を見せるのか。価格のアンカーから入るのか。この順番で、同じ商品が違って読まれます。
割引を訴求するときも、見せ方があります。「15%OFF」だけだと、割引そのものが主役になる。「品質はそのまま、今だけ手に取りやすく」と添えれば、品質のメッセージを残したまま背中を押せます。削るものを、少し減らせるわけです。
あのとき僕がやるべきだったのは、値下げではなかったのかもしれません。なぜ少し高いのか、その理由を先に伝えることだった。価格が語っていたメッセージを、言葉でも補強することだった。
明日、値引きを提案する前に
価格を下げる提案は、通りやすいものです。分かりやすいし、反対もされにくい。でも通りやすい施策ほど、何を削っているかが見えにくくなります。
明日もし値引きを考えるなら、ひとつ問いを挟んでみてください。
この価格は、今どんなメッセージを運んでいるか。それを下げたとき、何が足されて、何が削られるか。
その答えが曖昧なまま数字だけを動かすと、あのときの僕のように、利益だけが薄くなります。価格は数字であると同時に、いちばん短いコピーでもあるのだと思います。
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