この記事でわかること
- 競合との「違い」を説明するほど、ブランドが記憶に残りにくくなります。差別化より、一瞬で識別できる独自資産を育てることが重要です。
- 色・ロゴ・言い回しなどの独自資産は、理由を思い出すより速く名前を呼び起こします。記憶の中で名前と結びついた近道になります。
- 運用型広告で訴求ばかり差し替えると資産が育ちません。変えない層を最初に決め、見分けられる要素は固定して積み重ねてください。
生成AIによる要約
あるクライアントの広告文を書き直していたときのことです。
僕は競合3社の訴求を並べて、違いを一覧にしました。価格、機能、サポート体制。表にすると、たしかに勝てるポイントがいくつも見つかりました。それを全部コピーに詰め込んで、自信を持って入稿しました。
数字は動きませんでした。CTRも、指名検索も、ほとんど変わらない。むしろ前より覚えられていない感触すらありました。「うちはここが違います」と丁寧に説明するほど、広告はどこかで見た顔になっていました。
違いを言葉にすればするほど、ブランドの輪郭が薄くなる。その矛盾を、しばらく説明できませんでした。
「違い」を語ることと「識別される」ことは別の話です
この矛盾のヒントになったのが、バイロン・シャープの議論でした。
彼は著書『How Brands Grow』(2010, Ehrenberg-Bass Institute) で、ブランド成長の実証データから一つの主張をしています。ブランドを伸ばすのは、競合との機能的な「差別化(differentiation)」ではなく、記憶の中で見分けやすくなる「独自性(distinctiveness)」だ、という考え方です。
ここは混同しやすいので分けます。差別化は「なぜこのブランドを選ぶべきか」の理由づくりです。独自性は「これはあのブランドだ」と一瞬で気づかせる目印づくりです。
僕がやっていたのは、前者だけでした。理由を積み上げれば選ばれると思っていた。でも人は、広告の前でそこまで理由を吟味してくれません。
独自の資産は、記憶の中の近道です
では独自性は、具体的に何で作るのか。
ジェニー・ロマニウクは『Building Distinctive Brand Assets』(2018, Oxford University Press) で、それを「独自のブランド資産(Distinctive Brand Assets)」と呼びました。色、ロゴ、書体、キャラクター、決まった言い回し、音。ブランド名を出さなくても、それだけで「あのブランドだ」と分かる要素のことです。
これらの資産は、記憶の中で名前と結びついています。人がある場面で何かを思い出すとき、資産が引き金になって名前を手繰り寄せる。理由を思い出すより、はるかに速い経路です。
僕が詰め込んだ機能の一覧は、この経路をまったく作っていませんでした。正しいことを言っていても、記憶に残る取っ手がなかったのです。
差別化そのものを否定したいわけではありません。ただ、違いを説明する前に、まず見分けられていないと話が始まらない。順番の問題だと今は思っています。
運用型広告のクリエイティブは、資産を毎回捨てている
ここが実務にいちばん効くところです。
運用型広告の現場では、クリエイティブを高速で差し替えます。訴求を変え、色を変え、レイアウトを変え、テストで勝ったものだけ残す。効率は上がります。でもその過程で、独自の資産が毎回リセットされていることがあります。
先週のバナーと今週のバナーが、同じブランドに見えない。そういう状態を、僕は何度も作ってきました。1枚ずつのCTRは追えても、積み重なるはずの記憶が積み上がらない。
テストするのは訴求やオファーだけで十分です。ブランドの目印になる要素は、テストの対象から外して固定する。色、ロゴの置き方、決まったコピーの言い回し。ここを毎回動かすと、資産が育ちません。
具体的には、こう分けて考えています。変えていい層と、変えてはいけない層を最初に決める。変えていい層で数字を伸ばし、変えない層でブランドを覚えてもらう。この二層構造にしてから、指名検索の反応が変わってきました。
ロマニウクの言う資産の条件は、二つです。多くの人がその要素からブランドを思い出せること(fame)。そして、その要素を見た人がそのブランドだと特定できること(uniqueness)。この二つが揃って初めて、資産は近道になります。
運用型広告は、この二つを積み上げる装置にもなれば、壊す装置にもなります。差し替えの速さは武器ですが、何を差し替えないかを決めていないと、速さが記憶を削っていきます。
明日、自分のバナーを名前を隠して見比べる
もし今、複数のクリエイティブを配信しているなら、一つ試してほしいことがあります。
ブランド名とロゴを隠して、自分のバナーを並べてみる。それでも同じブランドだと分かるか。分からないなら、独自の資産がまだ育っていないサインかもしれません。
違いを説明する言葉は、いつでも足せます。でも見分けられる目印は、時間をかけて同じものを繰り返すことでしか作れません。
次のクリエイティブで、何を変えるかと同じくらい、何を絶対に変えないかを一つ決める。そこから始めてみてください。
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